2次創作 「フラッシュバック 1」




「今日は珍しく早めに帰れたな」
早めの帰宅でウキウキした青木は、帰りにスーパーに寄ってビールと弁当、つまみを買い込んだ。
たまには家でゆっくりするか。

テレビをつけると、特番をやっていた。
「緊急!大都会歳末犯罪捜査網 」、どうやら過去の大きな犯罪や、未解決の犯罪をつづった番組らしい。
ふーん、と思いながら弁当をつつき、ビールを飲む。
ぼーっと眺めるともなく見ていると、突然心臓が「ドキン」とした。
え? どうして? 飲みすぎたかなあ?
気がつくと、テレビには貝沼の写真が写っている。
貝沼がまっすぐ俺を見ている。
貝沼の目、あの 鈴木さんの脳で見た、自殺直前の目。同じ目。
次の瞬間、鈴木視覚者の画像が、鏡に写ってこちらを向いた貝沼がはっきりと見える。 
まるで、過去にそのまま運ばれたかのように。
あれ、俺どうしたのか... と思うまもなく、視野が真っ白に光った。



深夜の第九。薪はいつもと同じく、室長室で居残っていた。
そこへ、ノックもなしに勢いよく扉をあけて、帰ったはずの青木が現れた。
どうした? 青木。 とかけようとした声が、喉で止まる。
「?」
薪は青木の様子に違和感を感じた。 なにか、おかしい。青木...

青木の口がゆっくりと動く。
「ま き さ ん ...」
薪はその場に凍りつく。直接聞いたことがないはずなのに、頭にこだまする声。  ま き さ ん ... まきさん...
姿かたちは青木なのに、なぜダブってしまうんだ! 貝沼と。

青木は無表情なまま、近づいてくる。 こう、両手を広げて。
「まきさん... あんたを だきたくて だきたくて ころしたくて ころしたくて...」
ストン、と薪から現実感が抜け落ちる。目の前にいるのは、誰だ。ここは、どこだ。
後ずさりをしているつもりだが、実際には1mmも動けない。
視線をはずさないと動けないのがわかっているのに、目がそらせない。
ブラックホールのような 光をも吸い込む真の闇の瞳が、目前に迫ってくる、迫ってくる、迫って...。
カクン、と薪の膝が折れた。薪が耐えられるのは、ここまでだった。

ああ、まきさん... やっとおれのものに。
青木/貝沼は意識がない薪を抱きしめ、愛おしく ほおずりする。
そのまま抱きかかえソファに運び、横たえた。
青木/貝沼は前に跪き、薪の頭に顔をうずめてキスをする。
指で髪をくしけずり、前髪をかきあげ、額にもキスをする。
そのまま指を滑らせて、額に、こめかみに、眉に、鼻筋をなぞって、今は青ざめている唇の形を確かめる。
おれが あいして でも おそれていた つよい まきさんの ひとみ。
その ひとみさえ とじていれば ほら あんしんして こんなにちかづける。

青木/貝沼は薪の白く細い首筋をなぞると、唇で頚動脈に触れる。
トク トク トク トク ...
ふ、と床に落ちた薪の右手に気がつき、ひろいあげて手のひらを重ねる。
指と指を絡ませる。唇で指の冷たさを感じてみる。
絡ませた手をゆっくりとはずすと、シャツのボタンをひとつづつ...
現れた薄い胸に、そっと手を這わせる。
胸に頭を預けてみる。
トクン トクン トクン トクン ....

むねをあければ あつい あかい 血潮が こぼれだす。
あつい それは ゆっくり ひろがり ベルベットのような じゅうたんを つくるだろう。
おれが おそれる まきさんの ちせいと いし。
それを ひょうげんする ひとみ。
じゅうたんが ひろがれば ひとみは 2どとは ひらかない。
おれは あんしんして まきさんの そばに いることが できる。
ひとみをとじた まきさんは きっと おれを あいして くれる。
じゅうたんの うえで なら きっと あいしあうことが できる。 

青木/貝沼はポケットからナイフを取り出し、振りかざす。

(続)