●ネコ:肥満細胞腫● 肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)。肥満細胞という言葉それ自体も聞き慣れない名前ですが、その細胞に発生した腫瘍の肥満細胞腫は、もっと聞き慣れない病気でしょう。しかし、猫ではもっともよく発生する腫瘍のひとつです。 肥満細胞は免疫に関係する体の組織にある細胞です。体の組織が障害を受けたときの炎症反応に関して大切な役割を持っていますし、アレルギー反応にも関係している細胞です。この細胞の細胞質にある顆粒が放出されると、ショックや血液の凝固不全が起きたり、胃液の分泌が増え、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こすのです。  肥満細胞腫は体のほとんどの場所で発生しますが、特に皮膚での発生が多く、皮膚に発生する腫瘍の15%にも上ります。皮膚の他に、脾臓、小腸、肝臓、内臓のリンパ組織に多く発生します。猫では皮膚の肥満細胞腫の場合、 40%〜60%が頭から首にかけての部分に発生しますので、飼い主の方が気がついて来院されることがほとんです。  皮膚の肥満細胞腫では、円形から卵円形で、手で触れた感触は固い場合が多いのですが、まれにぶよぶよした浮腫状のものもあります。  腫瘍の表面は脱毛や紅斑の場合がほとんどですが、潰瘍を起こしていることもあります。皮膚の肥満細胞腫は、ひとつだけの場合もありますし、ぽつぽつと多発する場合もあります。  脾臓や腸管にできた場合には、慢性的な食欲不振や嘔吐や下痢が発症する場合があります。  診断は、皮膚の腫瘤に針を刺し細胞をとることによって行います。腫瘍性の肥満細胞は判断しやすいことが多いので、一般の動物病院でも診断します。  確定診断は切り取った組織で行います。血液中に肥満細胞があらわれることがありますので、血液検査も行います。もし、血液中に肥満細胞が見つかった場合には、脾臓や骨髄で肥満細胞が増殖していることになり、悪性となります。また、全身の病態を知るために血液化学検査を行いますが、肥満細胞腫を特徴づける検査結果はありません。肝臓や脾臓の腫大を確認するために、レントゲン検査も行います。  皮膚に発生した場合には、腫瘍部分を中心にして周囲の正常にみえる部分も十分に含んだ皮膚を切除する手術を行います。そして、切り取った正常にみえる皮膚も組織病理検査を行い、腫瘍細胞がないことを確認します。もし、その皮膚の中に腫瘍細胞がみられた時には、もう一度手術をした方がよいでしょう。  脾臓に腫瘍がある場合には、脾臓を摘出します。他の臓器にある場合でも、脾臓を摘出することがあります。  また消化管に発生している場合、正常に思われる腸管を含んで大きく切除します。組織病理検査によって腫瘍細胞がないことを確認するのも、腫瘍細胞がみられた時にはもう一度手術をする方がよいのも、皮膚の場合と同じです。  治療法として、外科手術による以外に、化学療法があります。化学療法は、全身に転移している場合や、切除が不可能な場合、また不完全な切除の場合などに薦められます。また、一般的ではありませんがX線照射を行うこともあります。